『船坂 晃弘氏の言葉の一部分』 イーハトーブ岩手は「山の国」である。日本地図で岩手県を眺めると、北上山地の大山塊が否が応でも目に飛び込んでくる。四国全島とほぼ同じ大きさを誇る岩手県の、実に三分の二近くを占めるこの大山塊の中には、ほとんど平地らしい平地は無い。川沿いにわずかに開けた土地に、まるで山に遠慮するかのように小さな集落がポツリポツリと現れるばかりである。東の方へ目を移していくと、山塊はそのままの姿で太平洋に迫り出し、断崖そびえ立つリアス式海岸となって荒波に洗われている。 「三陸」。この辺境の地に立つと、都会の喧騒はあまりに遠く感じられる。北上川沿いに開けた人口密集地帯との間には大山塊が横たわり、背後には広大な太平洋が広がる。まるで山と海に閉じ込められているようだ。 希薄な人口密度、そして峻険な地形。純粋な旅客鉄道を運営していくにはあまりに過酷過ぎるこの世界が、この物語の主人公「JR岩泉線」だ。
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