岩泉純木通信Iwaizumi Jyunboku Times

9/29

いよいよ月末。
明日で、ちょうど1か月経ちます。
今日は、毎日新聞さんの取材をいただきました。
その中で、当時のことを振り返ってみたんですが、被災が8月30日の夜。
ずいぶん長く感じた停電は、私の近辺では9月2日の夜には、復旧していました。
たったの3日間。
でも、真っ暗な夜は、それはそれは長く、眠れぬ時間でした。
実はまだ、停電している地区があります。
断水している地区もあります。
ボランティアさんが、まだ派遣されないお家も、たくさんあります。
まだまだ、見通しのつかない道のりです。
弊社も、機械の修理や、廃車になった車の代わりの中古車購入や、
工房の修復など、大きな難関である復興費用が、具体的に見えてくる時期。
ここからが正念場です。
気合入れて頑張っていきます。

うちの象徴の一つが、昭和33年に、前身である工藤製材時代に導入した、
古い製材機。
これを使って、仕入れた丸太を板にしてきました。
写真は今年の春のものです。
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製材機は、地面から30センチほど、かさ上げされていますが、
すっかり泥水に浸ってしまいました。
そして、お約束の泥まみれ。
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お手伝いに来てくださった、三浦さんご一家のおかげで、なんとか表面の泥は片付きました。
これから大きな障壁である、モーターの修理に入ります。
来てくれた業者さん、あまりの被害状況に加え、泥まみれであること
(※弊社が前もって泥を落としておかなかったこと)に絶句。
ちょっと余裕がなくて、ごめんなさい(汗)
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このモーターも、とても古いもの。
代替が難しい一方で、古いものは構造がシンプルなので、きれいに洗浄できれば、
直る可能性も高いと聞きます。
とりあえず今回は、トラックでモーターのみ持ち帰っていただきました。
その修理の結果を待ちながら、製材機の台車のほうも、診てもらわねばなりません。
最悪の場合、別の業者さんから、中古の製材機を販売いただけるようです。
ただ、この製材機は、祖父の代から使ってきた、思い入れのあるもの。
なんとか直ってほしいものです。
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さて、工房ですが、塗装場などを除いた作業場は、ほぼ床を剥がし終わりました!
ここで一気に、床の水洗いです。
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なんかこう、年末大掃除を終えた後のような、さっぱりした部屋に(笑)
水はこの後、デッキブラシやスクレーパーで、できるだけかき出しました。
驚くことに、水だけならかなり早く乾きます。
泥は長いこと湿っぽいんですけどねえ。
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ここで、被災を目の当たりにした時から温めてきた、復興プランの相談です。
機械と、作業スペースの配置を見直すこと。
なにしろ、据え付け型の機械は重いです。
何百キロもありますから、一度据え付けてしまえば、おいそれとは動かせません。
集じん機の配管や、電源の配線の問題もあります。
そのため、何十年も、ほとんど場所が変わりませんでした。
その間に、空いている場所に別の機械が入ったり、棚ができたり、補強の柱が立ったり、
気づいてみれば、広い作業場なのに、なんだか狭苦しく、動線がぶつ切りになっていました。
これを機会に、ゼロベースで見直します!
また、できることなら、何十年も使ってきて、かなり老朽化している電気の配線も見直したい。
能力の数割しか活用できていない集じん機も、タコ足配管を見直して快適に動かしたい。
費用とのにらめっこが続きますが、なんとか実現させたい課題です。
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今日の午前中には、8キロばかり離れた、落合の材木置き場に行きました。
この一帯は、岩泉の中心地から近いわりに、断水が最も長く続いています。
月内ぎりぎりに復旧する予定が、ここへきて数日延期になってしまいました。
何十キロも離れた奥地よりも遅いのは、なぜなのか。
理由は、水源地です。
岩泉は広いため、水源地が実に13か所に分散していて、
それぞれの集落の水道となっています。
ですから、集落ごとに、水道水の味が違うんです。
おいしい岩泉地区の水道水でさえ、まずいと言う、他地区の人もいます。
この二升石地区は、水源地が、土砂崩れなどで壊滅的な被害を受けました。
そして、水道管も、何か所も切断されてしまったそうです。
そこで、水源地を変え、そこから小規模浄水場に誘水し、
壊れた地下の水道管をあきらめて、ところどころで異例の地上配管をし、
なんとか少しずつ、給水範囲を広げています。
今日は、うちの材木置き場の目の前で、作業員さんが作業していらっしゃいました。
応援で岩泉に来ているのであろう、盛岡市上下水道局の方々でした。
消火栓から泥水が出ています。
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お邪魔にならないよう、お話を伺いました。

私「これ、泥水ですけど、井戸水かなんかですか?」
職員さん『いえ、上水道管から引いてます』
「えっ」
『水源地がひどいことになったり、あちこちで管が壊れて土砂が入り込み、
こんなことになってます』
「これはひどい・・・」
『泥水が出るだけマシです、ひどいと完全に詰まってしまって、
高圧洗浄車を使わないと、泥が出せません』
「水源地も、水道管も、ほんとに大変な状態なんですね」
『それ以外にも、減圧装置も土砂が詰まってしまい、その洗浄にも時間がかかります』
「減圧装置って何ですか」
『水源地から居住区までは、高低差があります。その落差で、水圧がかなり高まります。
必要な個所で減圧してやらないと、水圧が強すぎて大変なことになります』
「蛇口をひねるとぶしゅーって水が噴き出すとか」
『家庭の水道が破裂します』
「」

「これから冬になりますが、地上に配管している水道管は、凍らないんですか?」
『そのままだと凍ります。ですから、凍らないように保温などの工夫をするか、
このように夜間もどこかで水を流し続け、常に水を動かすか、ですね。
流れている水は凍りませんから。いずれ、これだけの被害が出るのは異例なので、
いろいろな検討をしながら進めています』

とのことでした。
たくさんの専門家、職員、業者の方々が、力と知恵を総動員し、
懸命の作業を続けてくださっています。
丁寧なご対応をいただき、ありがとうございました。

材木置き場に行った目的は、先日社長さんが自ら来てくださった建設業者さんの、
技術・作業担当さんと、崩落しかけている倉庫の、材木救出大作戦の打ち合わせです。
実際に作業してくださるかたに、時間をかけて調べていただくと、
どうやら少々難航しそうです。
なにしろ、崩れずに1か月も建っているのが、不思議なくらいだそうです。
それもそのはず、被災数日後に、土木技師の方に写真をお見せしたら、
「あー・・・これはたぶん、雨が降っても降らなくても、近々崩落すると思います」
とおっしゃってましたから。
その後、暑い日々を乗り越え、雨を乗り越え、軽い台風を乗り越え、
未だにそびえ立っている。
ド根性倉庫、とでも名付けましょうか。
見てくださいこのスケール感!
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乱暴に扱えば崩落する、バランスを崩せば崩落する、時間をおきすぎても崩落する、
大規模工事をするほどの予算はない、場所は悪い、という悪条件の中ですが、
なんとか解決策を考えてくださいました。
明日は重機を持ち込んでおいて、土曜日の朝から作業開始。
とにかく、一番怖いのは事故です。
崩落するだけならなんてことありませんが、そこに人が巻き込まれてしまうのは、
なんとしても避けねばなりません。
素人が手を出すと、ここのリスクの判断ができず、最悪、生死にかかわります。
プロのお力で、なんとか無事に終わらせていただきたいと願うばかりです。
ところで、濁流で洗われた川岸はこんな感じ。
「ゴジラの肌」とでもいいましょうか、荒い岩肌です。
岩泉はこういう地層が極めて多く、倒れた電柱の復旧をするときも、
地盤が固すぎて、電柱を埋める穴が掘れないところもあるそうです。
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