10/24
いよいよ10月も終盤、秋から冬の入り口が近づいてきました。
間もなく紅葉も盛りとなりそうです。
先日来てくださった、漫画家のそのだつくしさん。
取材の内容が、早くも掲載されました!
こちらからどうぞ。
> ずったり岩手 第254話 岩泉へ
岩手日報で毎日見ている絵柄で描かれた私。
漫画の世界に自分が入ったようで、不思議な気持ちですね。
まあ本題はそこではなくて、これも岩泉の現状の一つ、ということ。
そして、何十、何百と積み重なった、岩泉の被災のほんの一部、ということ。
この数ページに込められた、そのだつくしさんの思い。
この記事の元となった、高田工業さんの社長さんの思いと、スタッフさんのご尽力。
感じていただければ幸いです。
さて、今日は情報盛りだくさん。
まずは先週木曜日のできごとから。
剥がした床を貼り直すための、土台となる材料を引き取ってきました。
仕入れ先は、滝沢にある二和木材さん。
社長が高校のころからの親友なので、いろいろと心をくだいてくれました。
また、被災の直後に、道の悪い中を盛岡から駆けつけてくれました。
今回仕入れた材木は、4mと長く、うちのトラックにはちょっと長すぎます。
ご厚意に甘えて、二和木材さんの中型トラックをお借りし、積んでくることに。
うちの若手職人のA君と盛岡へ向かいました。
A君は過去に、4tトラックを運転していた時期がありますから、安心です。
ところが。
6.2t積みでした、このトラック。
私も彼も、旧制度の取得ですから、普通免許で運転できるのは総重量8t
≒積載量4t程度まで。
車検証を見たところ、総重量10t以上。
旧制度では、大型に分類されていましたから、普通免許では乗れません。
そんなわけで、大型免許を持っている私が運転を引き受けることとなりました。
あ、余談ですが私、大型二種免許=バスの運転免許もってます。
二和木材さんから、さほど離れていない、渋民の杢創舎さんへ。
前回積んでこれなかった、窓ガラスをいただいてきました。
それに加えて、床下用の断熱材や防湿シートまで、安く仕入れてくださっていました!
澤口さんのお心遣いに、感謝の言いようもありません。
まずはしっかりと、作業場を直していきたいと思います。
そこから一路岩泉へ。
休憩した岩洞湖では、葉がすっかりと色を変えておりました。
日が短くなり、夕方の5時半になりますと、もう夜です。
荷下ろしを手伝うために、職人さんは皆、残ってくれていました。
この日は風が強く、まだ残る泥の乾いた細かい土が、敷地中を舞い暴れます。
何かしゃべると口の中がじゃりじゃり。
壁の一部は修復のため剥がしていましたから、建物の中も強風です。
その中を、力を合わせて無事に荷下ろし完了です。
できれば当日中にトラックを返却したかったんですが、かなり遅くなってしまい、断念。
翌朝は4時半に出発し、盛岡へ向かいます。
トラック好きの私、久しぶりに乗る中型にご満悦で、道の駅で記念写真。
この日と次の日は、特別な用事がありました。
岩手県工業技術センターさん、ホップスさんらによる企画で、
岩手の工芸界と、北欧フィンランドのデザイン業界とのつながりが生まれています!
このメンバーの中に弊社も加えていただいております。
このたびなんと、あの有名なArtek社の、しかもデザインディレクターである、
Ville Kokkonen氏が、岩手に視察にいらっしゃいました!
しかも、県内の工芸関係の工房を巡る2日間のスケジュールに、私も同行させていただき、
弊社の盛岡店にも足を運んで講評を頂けるという、またとない機会!
これを逃すわけにはいきません。
二つ返事で参加させていただきました。
皆さんとともに訪れた1か所めは、一関の三協金属さん。
ごく一般的な工業用の部品鋳造から、工芸品の鉄器鋳造まで、
幅広く手掛けていらっしゃいます。
こういうところは数少ないそう。
おそらく、それぞれ別のノウハウが必要であり、それらを知り尽くしているからこそ、
互いの分野の技術にフィードバックし、相乗効果を上げていらっしゃるのでは
ないでしょうか。
工業製品でも、工芸品でも、鉄器の基本は同じ。
まずは砂で型をとります。
ちなみにこの時、砂をかたどる原型となるのが、木型。
その木型を作っていらっしゃるのが、以前お伺いした岩渕木型製作所さんのような、
木型専門の木工所さんです。
それにしても、どんな分野でも、腕のいい職人さんの動きには、無駄がありません。
こういう作業を見るの、好きです。
鋳鉄を作りだすのは、まるで太陽のような熱と光を放つ、溶けた鉄。
間近で見るのはこれが初めてです。
驚いたのが、その高温の鉄と、作業している職人さんたちの距離の近さ。
素人目には怖く見えますが、実際は徹底した安全管理をしており、
怪我をするリスクはほとんどないそうです。
「いわゆる3Kと評される業界だからこそ、それを覆す現場にしたい」
社長さんの言葉が心に響きます。
これが、溶けた鉄が流し込まれた砂型。
夢灯のような、幻想的な姿です。
固まって冷えた鉄は、砂型から外し、キズ物を除外して、次の工程へ。
グラインダー(回転砥石)を使って、一つずつ、丁寧にバリを削り落としていきます。
さて、鋳鉄で作る工業製品といってもいまいちピンときません。
どういうものを作っていらっしゃるんでしょう?
社長さんが見せてくださったのが、Yの字を曲げたような、3又の部品。
これはなにかというと、ブランコの足と横棒とをつなぐ部分だそうです!
見たことありますよね!!
他にも、校庭や公園にある鉄棒の一部分も作っていらっしゃいました。
もちろん、これはほんの一例ですが、身近すぎて、普段は気にもとめないものたち。
こういった所で作られていたんですね。
次に訪れたのが、江刺にある藤里木工所さん。
岩谷堂箪笥の第一人者として知られています。
岩谷堂箪笥というのは、一つの会社ではなく、数社が組合をつくり、
それぞれが個別に製作しています。
藤里木工所さんは、その中でも随一といわれる技術と、
常に先を見据えた先進的な経営や、若手育成でも注目されています。
私たちを出迎えてくれたのは、巨大な梁。
全国でも、こんなものはほとんど見ることはできないでしょう。
Kokkonenさんも目を丸くし、注目していらっしゃいました。
嬉しいことに、創業者であり、今も現役で最高の職人でもある及川孝一会長が、
彫金作業を見せてくださいました。
薄いといっても鉄は鉄。
早々に姿を変えてはくれません。
かといって、誤った叩き方をしてしまうと、修正するほどドツボにはまります。
狙いを定めて丁寧に、しかししっかりと、金槌を落としていきます。
写真では見にくいんですが、じつは足の指で、鉄板をはさんでいます。
いかにも工芸の職人といった印象。
素敵です。
これらが完成品。
風神の袋のふくらみの表現のすばらしさ!
まるでこちらにも風が吹き付けてくるようです。
さらに凄みを感じたのがこちら。
龍の眼力は言うまでもありませんが、これが作りかけで、一部が平面、
一部が立体的になっているのが印象を高めます。
今まさに鉄の板に命が吹き込まれ、動き出したかのよう!
藤里木工所さんの特徴の一つは、広く明るく、働きやすい作業環境を
整えていらっしゃること。
伝統工芸で大切なのは、技術と、工法と、学びと、作品。
「労働環境」はこれらとは別で、働きやすい環境だからこそ、良いものが作れます。
これはお仏壇でしょうか。
女性の職人さんもいらっしゃいます。
木工所には欠かせない、砥石たち。
ちなみにKokkonenさん、日本文化や和食にも関心があり、浅草のかっぱ橋で包丁を買い、
自ら砥石で研いで使ってらっしゃるんだとか。
仕上げはもちろん、漆塗りです。
この日はお二人の職人さんが、作業をしていらっしゃいました。
驚いたのが、事務所にある応接テーブル。
まるで羊羹みたいな形をした巨大な材木を、そのままデンとテーブルにしています。
これがまた素晴らしい。
無塗装で、毎日拭きながら使ってきたため生まれた、この質感。
家具は作られてから、時間をかけて完成していくのだと再認識しますね。
この日の最後を締めくくったのが、弊社の盛岡店でした。
予定時間をオーバーしてしまいましたが、さまざまなことを質問させていただき、
とても明確な表現でご回答していただくことができました。
この時の模様は、岩手めんこいテレビさんが取材してくださっておりました。
近日に放送される見込みです。
今回被災してしまったり、そのために皆さんとのフィンランド視察も行けなかったり、
そういった状況の弊社を気遣って、推薦してくださった模様。
ありがとうございます!
この日の夜は懇親会。
濃密な時間を、皆さんとご一緒させていただきました。
明けて翌日。
この日の最初に訪れたのは、八幡平市安代にある、安比塗漆器工房さん。
浄法寺塗と並ぶ、県北の漆産業の中心となる工房さんです。
お店兼工房に入ると、まず目につくのが作業工程の見本。
ひとつのお椀がどのような工程を経て、どのように変化していくのか、
一目でわかります。
写真で見るより、こうして実物を見ると、とてもわかりやすいですね。
黒塗りや朱塗りのような塗り方は、木目が見えない分、造形美が引き立つ一方で、
粗が見えやすいもの。
だからこそ、徹底した技術と細やかさが求められます。
Kokkonenさんのまなざしも真剣に。
嬉しいことに、この日はめったに見られない、仕上げ塗りの現場を拝見できました。
仕上げ塗りは、一般公開していない、奥の部屋で行われます。
上に書いたように、目に見えないほどの小さなホコリが、漆塗りでは致命傷になります。
特にこの部屋は、徹底してホコリを防ぐことが重要です。
風防のような前室を設け、2段階の戸でホコリが入らないようにし、
作業前には徹底的な掃除を行い、ホコリを飛ばしたナイロン製の上着を着、
さらには作業中は腕以外いっさい動かさないほど。
あー疲れた!と伸びをすることすらはばかられる、大変な作業です。
「次来るときには髪を剃って、防塵服を着てくるから、ぜひ中に入れてください」
とKokkonenさん。
ジョークではありますが、ぜひとも間近で見たいというのは偽らざる本心でしょう。
安比塗漆器工房さんの職人・作家さんは、ほとんどが女性。
他の産地では男性職人が多いそうですが、特別な魅力があるのかもしれません。
お椀などはちょっと高いかな・・・というかたには、お箸がおすすめです。
漆塗りの箸はちょっと堅苦しいイメージもありますが、こちらのお箸はPOPなものも多く、
気軽に入門できますよ。
こんど夫婦箸買おう。
いわいずみ手しごと市などのご縁もある安比塗漆器工房さん。
台風10号の被災者への義援金も募ってくださっていました。
ほんとうにありがとうございます。
次に訪れたのは、八幡平市大更の酒蔵、わしの尾さん。
原則として県外では販売しないというポリシーのため、全国的にはあまり知られていません。
しかし県内のお酒好きでは知らない人はいない、地元で愛される酒蔵です。
県内限定の一方で、日本酒やそれを取り巻く酒器の普及にはたいへん積極的で、
海外へもたびたび足を運んでいらっしゃるほど。
建物に入ってすぐに出てきたのは、このおもしろい食器箪笥。
蔵から出てきたそうで、中の食器も昔のものがそのまま入っています。
Kokkonenさんも興味津々。
母屋を拝見。
重厚な木組みは、昔のままにそびえています。
わしの尾さんの創業は文政十二年(1829年)。
あと10年あまりで、創業200年に達します。
酒蔵は古い歴史のあるところがほとんどですが、酒蔵だから、歴史があるから、
生き延びられるわけではありません。
長年にわたって酒造りの腕を磨き、よりおいしいお酒作りを求めていらっしゃったからこそ、
今があります。
お酒造りの現場でいきなり現れた、天を衝く大量の一升瓶。
ご存知の通り、一升瓶は全国の酒屋さんで回収され、洗浄されてリサイクルされます。
ペットボトルや古紙などのように、溶かしたりしてリサイクルされるものは数あれど、
容器をそのまま使いまわすものは、今では酒瓶くらいしかないんじゃないですかね。
牛乳瓶はマイナーな存在ですし。
稲刈りのシーズンが終わり、今は仕込みの真っ最中。
文字通り上へ下へと大忙しです。
いよいよ酒蔵へ。
火入れの日にちを書き入れたタンク。
もの作りでよく見かける、こういうのが味わい深いですね。
金印とは、わしの尾さんのいわゆる普通酒の銘柄。
口当たりがよく、つい顔がほころんでしまう、地元の人に最も愛されるお酒です。
お米に菌をつけ、麹になったもの。
ほんのりと甘いですが、まだお酒っぽさはありません。
なにやら風格のある、古い機械の前を通って、次の工程へ。
お米は麹菌により、少しずつその成分を変えていきます。
これが一気に進んでしまうとまずくなり、また雑菌で腐ったりすることも。
雑菌を防ぎ、善玉菌の働きもできるだけゆっくり、じっくりと進めるため、
日本酒の仕込みは冬に行われます。
温度管理をしながら、お米は徐々に発酵していきます。
その管理は、土日も、年末年始もなく、休まず続けられています。
果てはこんなに発酵が進みました。
カメラの先では、今まさに、ふつふつとガスが動いています。
この状態がゴールではなくて、この後は徐々に発酵が落ち着き、
泡も消え、おいしいお酒へと熟成されていきます。
お酒造りの現場を見せてくださったわしの尾さん。
最後はお楽しみの試飲です。
とはいえ、解散後に車で帰宅する人が多く、皆さん残念でした。
この鬼灯のような色をした、大きな片口がまたいいですねえ。
今年仕込んだお酒は、これから長い時間をかけて仕上げられ、
熟成され、皆さんのお手元に届きます。
わしの尾さんでは、2月にお酒と酒器のイベントを開催し、酒蔵も見学できます。
ご興味のある方はぜひどうぞ。
最後に訪れたのは、滝沢市岩手山の磁器工房、陶來さん。
作家の大沢さんは、素晴らしい技術とセンスを持ったすごい人なんですが、
実に気さくなかたで、私もわしの尾さんを介して知り合い、
以来親しくさせていただいています。
グッドデザイン賞を受賞した美しい介護食器、「てまる」でも知られます。
フィンランドのデザインの魅力は、無駄がなくシンプルで、美しく、実用的であること。
これはまさに陶來さんの器に通じます。
Kokkonenさんは、陶來さんの器に大きな関心をお持ちになっていました。
もしかすると、年内にもフィンランドのクラフトショップにお目見えするかもしれません。
「あまり高い値段だと買いにくいし、使うのを躊躇するじゃない。
やっぱり食器って毎日使って欲しいからさ、あまり高くできないんだよねえ」
と、以前おっしゃっていたのが今でも印象に残っています。
完成度からすると、陶來さんの器はものすごく割安だと思います。
良いものを作る作家さんは、ほぼ例外なく、研究熱心です。
オリジナリティは無から生まれるのではなく、無数のモチーフから生まれるもの。
それは模倣ではなく、感性の引き出しを増やすこと。
だから陶來さんの器は、たくさんの種類はあれど、また気軽にオーダーに応じてくれども、
どれも美しく、実用的です。
この事業はまだ続きます。
今週は、東京デザインウィークの視察があります。
そんなわけで、私も明日の夜から夜行バスで東京に行ってきます!
さて、工房の様子はどうなったでしょう。
補強の鉄骨梁が、無事に設置されていました!
これで無駄な柱がなくなり、一方でちょっと間隔の開きすぎていたところが補強され、
広く、丈夫な作業場となりました。
藤里木工所さんまではいかずとも、少しでも快適にしたいですね。
トラックは連日の大活躍。
今日は、砂と砂利とセメントを積んで帰ってきました。
ダンプではありませんから、当然手下ろしです。
フォークリフトのバケットに向かって、かき下ろしていきます。
これらを混ぜて、コンクリートを敷設します。
ミキサー車はいませんから、これまた手作業で水とともに混ぜていきます。
粘性も出てくるわけですから、大変な仕事です。
雨水が流れ込まないくらいかさ上げになるとともに、スロープができました。
ここは以前は壁でしたが、今回の洪水で壊れてしまったのをきっかけに、
フォークリフトが工房内まで材木を運び込めるように、リフォームします。
どうせ直すなら、前以上に使いやすく!
これと並行して、床を貼る作業も進んできました。
大工仕事はお手の物。
毎日の進展が楽しみです。
まだ窓ガラスはほとんど入っていませんが、ガラス戸は入りました。
ここはでき上がった家具を運び出す出入り口。
これまでは普通の高さの戸だったため、上にぶつからないよう、
腰をかがめて家具を運ぶことも珍しくありませんでした。
これはかなり高さがあるため、ほとんどぶつける心配がありません!
今週もさらに一歩前進するよう、皆で頑張ります!