岩泉純木通信Iwaizumi Jyunboku Times

11/1

いよいよ11月。
早いもので、台風10号から、まる2ヶ月が過ぎました。
残暑厳しく、道を歩けばジリジリと太陽が照りつけ、
それでも断水で、水を飲むのを躊躇した9月初旬。
一気に秋へと季節が移った10月初旬。
そして今日11月1日は、峠筋で雪になりました。
ついに冬です。

岩泉の街なかでは、朝から冷たい雨。
冬の雨は、雪よりも冷たく感じます。
前回工事をしていた、工房の新搬入口は、コンクリートがしっかりと固まっていました。
先日までは、泥をかき出したりするため、わずかにあった段差を壊し、
内外の段差をなくしてありました。
そのため雨が降ると、建物内に流れ込む恐れがあったんですが、これで安心です。
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外には排水管もあります。
これを通って雨水は流れていってくれるのですが・・・
今回の被災であちこち片付けたり、工房の裏にも足を運んだりしたものの、
この排水管がどこにつながっているのか、わかりません。
下水でもありませんし、裏の川へ流れるのかと思えば、
近くの護岸には排水口がありません。
実に不思議です。
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雨の中、仮設住宅の建設が始まっています。
工房の裏手、B&G海洋センターの裏にある敷地は、当初は瓦礫置き場でした。
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この写真のあと、ほぼ満杯になり、分別され、運び出され、礫石が敷かれ、
そして昨日から区分けされ、今日に至ります。
トラックに乗っているプレハブ小屋は、仮設住宅ではなく、
工事業者さんの事務所のようです。
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ところで、コンクリート敷設など、工房修理の中心となってくれていた
職人の一人が、今日から数日間リタイア。
重いものを動かし続けたりしてきたので、腕が限界というか、
筋肉の炎症のような状態になったみたいです。
まだまだ修理箇所が多いですので、無理して後遺症になっては大変ですし、
落ち着くまでお休みとなりました。

さて、今日は被災した製材機に大きな動きがありました!
何度かブログにも書いてきましたが、昭和33年製、うちで一番古い機械。
当時から使い続けてきて、初めての洪水被害に遭いました。
台車は水没し、乾けば泥まみれ。
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モーターは床下にあるので、これもひどいことになっていました。
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このモーターは、10日ほど前に無事修理が終わり、戻ってきていましたが、
湧き水が出ていた床下溝を補修し、残っていたほかのモーターも修理され、
先日無事にセットされました。
しっかりと洗浄され、修理されたモーターが眩しく輝きます。
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これと同時に、台車も修理されました。
そもそもこれまで、錆びたり歯車に泥が詰まったりして、
押しても引いても動かせませんでした。
業者さんも当初は悩んでいましたが、さすがプロ。
必要な処置を施し、2ヶ月ぶりに台車が(モーターではなく手動で)移動しました。
移動後、台車があったところには泥がぎっしり。
他の部分は、うちのスタッフや、お手伝いいただいた方々のお力で、
すでにかき出されています。
この数倍もの泥がこれまでにかき出されたことを思うと、これまでの頑張りと
ご協力の大きさが実感できますね。
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台車の線路の間は、人が潜れるように深くなっています。
動かした先には泥がありませんから、業者さんも台車の下に潜り込んで
メンテナンスをしてくださいました。
そして、モーターを取り付け、ついに再起動!
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ここまでは数日前のお話。
それから今日まで、うちの製材担当スタッフが、こつこつと製材機本体の
メンテナンスをしてくれていました。
油をひいたり、錆を落としたり。
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モーターの状態、帯鋸を回す車輪やベアリングの状態を確認しながら、
数日間。
そして今日、実に2か月ぶりに、製材機が復旧しました!

今回工房を修理した柱や梁などは、地元の製材屋さんにお願いしていました。
ここからはやっと自前でできるようになります!

午後にはさらなる朗報。
峠の雪を越え、木工機械の修理をお願いしている業者さんが、
先行して修理を終えた3台を納品に来てくれました。
ちなみに、持ち帰っていただいた日のブログは>こちら<。
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1か月近くぶりに、手押しかんな盤が工房の中へ。
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この機械は、すべて完全に水没してしまっていました。
被災直後の写真がこちら。
不鮮明なのでわかりにくいですが、作業台の上には泥がたまり、
その下はすっかり錆びてしまっていました。
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そして今日の姿がこちら!
ほぼすべての部品をバラし、洗浄し、錆を落とし、組み立て直していただき、
ギラギラと光るほどに!
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もう1台は、軸傾斜つき横切り丸鋸盤。
これのBeforeはわかりやすいです。
当初は酷い状態でした。
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こちらも、すっかりきれいになって帰ってきました。
被災直前にちょっと動きが渋かったスライドテーブルも、
するすると滑らかに動くようになっていました。
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もう一つ帰ってきたのは、コンプレッサー。
エアーガンで、狭いところの埃をはらうことができるので、
明日から活躍してくれそうです。
当初から修理してもらっている自動一面かんな盤は、機構が多いため、
まだしばらくかかりそう。
今回直していただいている3台の木工機械から、なんとバケツ10杯くらいの
泥が出てきたそうです。
うーむ、もっとちゃんと掃除してから依頼できればよかったんですが、
ゴメンナサイ。

工房の補修はというと、こちらも進んできました。
ここも何回か書いてきた部屋ですが、9月上旬の姿。
膝ほどまで泥がたまっており、直接泥に足を下ろすと長靴の中まで
泥が入ってきてしまい、しかも足が抜けなくなるため、
瓦礫の上を歩いて行き来するほどでした。
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先日の土台加工から、
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今日は床のパネル材が貼られるまでになりました。
そして床下には、待望の断熱材も!
これらは、岩手の木をふんだんに使った木造住宅といえば県内随一の、
杢創舎さんのご厚意でお譲りいただいたもの。
凍えるようだった冬の作業が、少しでも快適になればと思います。
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引き続き、工房復興を進めていきます!

さて、私は26日から28日までの3日間、上京していました。
初日の夕方は、表参道にある家具ショップ、WISE-WISE(ワイス・ワイス)さんの、
20周年フォーラムに参加。
ワイス・ワイスさんは、当初は外国の木で、外国で大量生産された家具を輸入し、
比較的安価で販売する会社でした。
しかし、違法伐採や環境破壊の現状を目の当たりにした佐藤岳利社長が奮起。
周囲の反対を押し切って、国産材を使った国産の家具作りへと180度方向転換し、
今や全国から注目を集めています。
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今回は3日間のシンポジウムも開催。
初日は200席余りが満席となり、立ち見も出るほどの大盛況。
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我らが岩泉町の農林水産課で、岩泉の林業の未来を切り開いている
盟友今村さんも、パネリストとして登壇(中央)。
パネルディスカッションに先だって、岩泉の現状と、
今後の林業の未来についての熱い発表も行われました。
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この日のパネリストの皆さん。
手前左から、
坂本有希さん:一般財団法人地球・人間環境フォーラム 企画調査部長・理事
沖修司さん:林野庁次長
宮原元美さん:株式会社ミヤケン取締役
奥左から、
大場隆博さん:株式会社くりこまくんえん
佐藤岳利さん:ワイス・ワイス代表取締役
今村篤さん:岩手県岩泉町林業水産室 室長
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わかる人にはわかる、すごい面々です。
夜には懇親会も開かれ、私も二次会までご一緒させていただきました。
安い輸入材の台頭で、国内林業が厳しい状況にあるのはご存知の通り。
それでも、かつてとはちょっと違った形、あるいは新しい形で、
全国各地で少しずつ、元気な林業が盛り上がりつつあります。
私たちの家具作りも、少しずつ、岩泉の山とともに歩んでいきたいと思います!

27日・28日の2日間は、岩手県工業技術センターの方々と、
県内で工芸に携わる業者さんとの東京視察です。
メインの一つは、神宮外苑で開かれた、東京デザインウィーク。
単なる工業デザインではなく、アートを交えた展示は毎年恒例。
できれば来年は、新商品を引っ提げて見本市にも出展したいので、
今回は展示の仕方などにも目を配っていきます。
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こちらは中川政七商店さんの表参道店。
お客として入ることはあれど、解説を聞きながら学べる機会など、
なかなかありません。
工業技術センターさんの企画に感謝。
いくつか質問にもお答えいただき、たいへん参考になりました。
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さらに、フィンランドのブランドArtek社の東京オフィスへ。
その親会社のVitra社のオフィスも兼ねています。
ここでは、現地から派遣されている担当者さんから、
Artekの家具作りと理念について(日本語で)レクチャーをいただきました!
Artek社の考え方は、その社名の通り、ArtとTechnologyとの融合。
生活の中にアートを取り入れ、心豊かな生き方を提供するというもの。
いくらか突っ込んだ質問もさせていただきましたが、
すべて丁寧にご回答いただき、またとない学びの場となりました。
夢のような数十分でした。
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最終日の夜は、六本木の21_21 DESIGN SIGHTへ。
今年の春に教えてもらってここを知ったんですが、デザイン関係の
企画が多く開催されており、またちょっと変わった視点からのものも多く、
以来時々足を運んでいます。
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今回の企画はこれ。
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お菓子や乳製品でおなじみの、明治のデザインの分析企画です。
デザイン分析なんて書くと堅苦しく見えますが、中に入ると、
巨大な(お菓子)きのこの山の模型が出迎えてくれます。
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それでは子供向けの企画なのかというと、そうではありません。
パッケージのデザイン、ロゴのデザイン、成分表や注意書きなどのデザイン、
チョコレートやビスケットの色味に至るまで、あらゆる要素について
分析されています。
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アート性の高い東京デザインウィークに比べ、プロダクトデザインの
要素が強いこの企画。
両方見ることができたのは幸いでした。
書籍コーナーを彩るのは、前日に見てきたばかりのArtekの代表製品、
Stool60。
このブログも自室でこの椅子に座って書いています。
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デザインと技術は、もの作りの両輪。
今後もしっかりと学んでいきたいと思います。